中小M&Aでよく使われる企業価値の計算方法「時価純資産+実質営業利益」を理解しよう

よく利用される「時価純資産+実質営業利益」

中小企業のM&A(合併・買収)において、適切な企業価値の評価は成功するための重要な要素です。昨今、中小企業のM&A特有の評価方法として、「時価純資産+実質営業利益」という計算式を用いた年買法(年倍法)がよく使われています。この評価手法は、企業の実態に即した価値を見積もるのに適しているため、多くのケースで採用されています。この記事では、「時価純資産+実質営業利益」の計算方法を詳しく解説し、その他の主要な評価方法についても紹介します。

1. 中小企業M&Aにおける企業価値の重要性

中小企業のM&Aにおいて企業価値を正確に評価することは、取引の成否を左右する重要な要素です。中小企業は、大企業と比較して市場での存在感が小さく、財務諸表だけでは把握しきれない特有の価値を持っています。そのため、中小企業に特化した評価手法を使用することが求められます。

2. 「時価純資産+実質営業利益」とは?

「時価純資産+実質営業利益」は、年買法(年倍法)とも言われ、中小企業の実態を反映した企業価値評価手法です。この方法では、企業の現在の資産価値を基礎とし、営業活動から得られる利益を加味して企業価値を算出します。

(1) 時価純資産とは?

時価純資産は、企業が保有する資産を現在の市場価格で評価し、そこから負債を差し引いたものです。これにより、企業の実際の財政状態を反映した資産価値を求めることができます。

  • 計算方法:

時価純資産 = 資産の時価評価額 − 負債の時価評価額

具体例:
ある中小企業が現金、設備、不動産などの資産を持ち、これらの時価評価額が1億円で、負債が3,000万円であれば、時価純資産は7,000万円となります。

(2) 実質営業利益とは?

実質営業利益は、企業の通常の営業活動から得られる利益のことです。これは、経営者の一時的な判断や外部要因による特殊な費用(節税目的の経費等)を除外し、企業の真の収益力を示す指標です。中小企業M&Aでは、実質営業利益を評価の基準とすることで、買収後の安定した収益を期待することができます。

  • 計算方法:

実質営業利益 = 営業利益 − 一時的な費用(節税目的等の費用)

具体例:
ある中小企業の営業利益が2,000万円で、一時的な費用や節税目的の費用(交際費、生命保険等)が300万円の場合、実質営業利益は2,300万円(2,000万円 + 300万円)となります。

(3) 「時価純資産+実質営業利益」の計算方法

企業価値は、時価純資産に実質営業利益を加算し、その結果をもとにして算出されます。この方法は、企業の現在の財政状態と将来的な収益力を同時に評価するために非常に有効です。

  • 計算方法:

企業価値 = 時価純資産 + (実質営業利益 × 評価倍率)

評価倍率は業界平均や類似企業の取引事例などを参考に設定されます。

具体例:
時価純資産が7,000万円で、実質営業利益が2,300万円、評価倍率が3の場合、企業価値は1億3,900万円(7,000万円 + (2,300万円 × 3))となります。

3. 他の企業価値評価方法

中小企業M&Aでは、「時価純資産+実質営業利益」以外にも、いくつかの評価手法が用いられます。これらの方法も理解しておくことで、より多面的に企業価値を評価することが可能です。

(1) ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法

DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を計算する方法です。将来のキャッシュフローの予測と割引率の設定が重要となります。

  • メリット: 将来の収益力を反映した精緻な評価が可能。
  • デメリット: 将来の予測に依存するため、評価に不確実性がある。

(2) マルチプル法(倍率法)

マルチプル法は、類似企業の市場価値と収益指標(EBITDA、売上高など)の比率を基に企業価値を評価します。迅速に評価できるため、実務でよく使用されます。

  • メリット: 市場の評価を反映しやすく、迅速な評価が可能。
  • デメリット: 市場の変動や比較企業の選定に依存するため、評価が不安定になることがある。

(3) 純資産倍率法

純資産倍率法は、企業の純資産に一定の倍率を掛けて企業価値を評価する手法です。主に資産が多い企業や安定したビジネスモデルを持つ企業で使用されます。

  • メリット: 資産価値を重視した評価が可能。
  • デメリット: 収益性を十分に反映しない可能性がある。

4. 中小企業M&Aでの企業価値評価のポイントと注意点

中小企業のM&Aにおいて企業価値を適切に評価するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

  • 企業の特性を理解する:
    企業のビジネスモデル、収益構造、資産構成に応じて最適な評価方法を選択することが求められます。例えば、製造業で設備投資が多い企業には「時価純資産+実質営業利益」が適している場合があります。
  • 複数の評価方法を併用する:
    1つの評価方法に頼るのではなく、複数の評価方法を併用することで、バランスの取れた企業価値を算出することが可能です。
  • 市場動向や業界特性を考慮する:
    特に中小企業では、業界内での競争力や市場シェアが企業価値に大きく影響するため、業界の特性や市場動向を考慮することが必要です。
  • 専門家の意見を活用する:
    企業価値評価は高度な専門知識を要するため、必要に応じてM&Aの専門家や会計士の意見を取り入れることが望ましいです。

5. まとめ

中小企業のM&Aにおいて、「時価純資産+実質営業利益」は、企業の資産価値と収益力をバランスよく反映できるため、非常に有用な評価手法です。しかし、企業価値の評価には様々な手法があり、企業の特性や目的に応じて最適な方法を選択することが重要です。複数の評価方法を組み合わせることで、より精度の高い企業価値を算出し、成功するM&A取引を実現しましょう。この記事を参考にして、企業価値の評価を行い、中小企業M&Aを成功に導いてください。

 

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