M&Aを従業員に開示するタイミングとその内容とは?
M&A(企業の合併・買収)は、企業や従業員にとって大きな変化を伴う出来事であり、従業員への説明や情報開示のタイミングが非常に重要です。特に中小企業の場合、従業員の不安や誤解を避け、業務への支障を最小限に抑えるために適切なコミュニケーションが必要です。本記事では、M&Aにおける従業員への説明のタイミングや具体的な内容、そして、「中小M&Aガイドライン」に基づく従業員の雇用継続への配慮について詳しく解説します。
1. 従業員への説明タイミング
従業員への説明は、社内での立ち位置や役職等に応じて開示するタイミングが異なります。以下は具体的な例です。
- 重要な役員:経営に深く関与していたり、社内で重要な役割を担っている役員に対しては、基本合意締結前に開示することが望ましいです。重要な人物に対する開示が遅れてしまうと、「軽視された」と思われてしまうため、同意や共感を得ることが非常に難しくなります。重要な人物の同意や共感を得ることができないM&Aは、進行することが非常に難しく、最悪の場合はM&Aを実行することができない状況に陥ります。可能な限り早い段階で開示するようにしましょう。また、その際に注意するポイントとしては、相手との交渉が順調に進むということを明言しないことです。M&Aは様々な要因で破談になることも珍しくありません。確定しているわけではないということも含め、丁寧に説明しましょう。(下記の経理責任者や事業責任者への説明時にも同じ説明をしましょう。)※M&Aについては他言しないことも徹底しましょう。
- 経理責任者および担当者:社内に経理責任者や経理担当者がいる場合は、基本合意前に開示するようにしましょう。M&Aでは企業価値を適切に算出するために、買収側から財務資料を多々求められます。また、企業調査(買収監査/デューデリジェンス)の際には、更に多くの財務資料の提出や財務に関する質問に回答する必要があります。これらのことからも、M&Aをスムーズに進めるためには、経理責任者の協力が必要不可欠です。適切なタイミングに丁寧な説明をし、協力を取り付けましょう。
- 事業責任者:事業部の各責任者といった、事業運営上のキーマンとなる人物に対しては、基本合意後に開示することが望ましいです。キーマンは事業を継続していく上で重要な人物であるため、M&A後に離職してしまうと買収側が損失を被ることになります。買収側はM&A後もキーマンが残ることを前提としてM&Aに挑みます。キーマンの同意や共感が得られない場合は、M&Aを見送るという判断にも繋がりますので、適切なタイミングと丁寧な説明を心がけましょう。
- 一般(その他)の従業員:一般の従業員に対しては、最終契約直後もしくはクロージング後に開示することが一般的です。M&Aが正式に合意されていない段階で一般の従業員に伝えてしまうと(情報漏洩も同じ)、不安や混乱を招く恐れがあり、M&A自体が頓挫することも考えられます。中途半端な状況で開示したことによって頓挫した場合は、M&Aが頓挫しただけでなく、信頼関係が崩れることによって従業員の退職リスクも発生しますので、中途半端な情報開示は行わず、情報管理を徹底しましょう。M&A後の説明は、従業員に具体的かつ確定した情報を提供でき、信頼関係を保ちやすくなります。
2. 中小M&Aガイドラインが示す「従業員の雇用継続への配慮」
従業員への説明内容を紹介する前の補足として、「中小M&Aガイドライン」が示している「従業員への配慮」について紹介します。「中小M&Aガイドライン」は、特に中小企業のM&Aで従業員の雇用継続に配慮することを推奨しています。具体的には、以下の点において従業員の不安を軽減し、適切な配慮を求めています。
- 雇用の確保と待遇維持および改善:M&A後の雇用確保と待遇維持もしくは改善については十分に買収側と協議をし、従業員が納得する条件でM&Aを進める必要があります。その上で従業員に対して、雇用の維持や待遇の改善について説明し、信頼関係を築くことが重要です。
- 業務環境の変化への対応:特に従業員が大幅な業務変更を経験する際は、その影響について説明し、新しい環境での適応がスムーズに進むよう配慮が必要です。
- 債務超過の場合の事業譲渡:譲渡する会社が債務超過の場合は、一部の事業を譲渡する「事業譲渡」といった方法を用いて、事業に関係する従業員の雇用を最大限守る配慮も求めています。
このように「中小M&Aガイドライン」では、従業員の雇用継続や待遇について十分に議論することを求めています。従業員の不安を軽減するための「配慮」を行うことで、M&Aによる従業員との摩擦を最小限に抑え、買収後の事業継続を可能にします。
3. 従業員への具体的な説明内容
説明を行う際には、従業員全員を対象とした説明会を開催し、売り手と買い手双方が同席の上で以下の具体的なポイントについて明確に伝えると効果的です。
- M&Aの目的と意義:なぜM&Aを行ったのか(後継者不在等)、どのようなメリットがあるのかを説明します。買収側と話し合った成長戦略や新しいビジョンについての理解が深まると、従業員も前向きに取り組みやすくなります。
- 従業員の待遇・雇用の安定性:雇用の継続が約束されている場合や、給与や待遇が変更される場合は具体的に説明しましょう。従業員にとって自身の待遇や立場の安定が確認できると、不安の軽減に繋がります。
- 変わること・変わらないことの説明:M&A後に組織体制や業務内容が変わる場合は、あらかじめその変更点を明確に伝えます。業務の効率化や組織の再編など、従業員に直接影響を与える変化について具体的なイメージを持ってもらうことが重要です。また、業務内容に変化がない場合は、「変わらないこと」について丁寧に説明することも大切です。「変わらないこと」についても丁寧に説明することで、従業員は安心することができます。
- 感謝を伝える:上記の内容を丁寧に伝えつつ、これまで一緒に働いてくれた従業員への感謝の意を伝えましょう。感謝の意を伝えることで、従業員の自尊心を傷つけることを防ぐことができ、スムーズな経営移行を実現することに繋がります。
4. 個別面談で従業員の不安を解消する
全体説明の後、従業員の不安や疑問に応える場(個別面談)を設けることが重要です。個別面談での質疑応答の時間は、従業員の不安を直接解消するための効果的な方法であり、信頼関係を築く手段でもあります。
- 個別のフォローアップ:従業員全体への説明後、個別に詳細なフォローアップを行うことで、特有の不安や疑問に対応することができます。
- 役員やキーマンの役割:事前に開示している役員やキーマンが従業員に寄り添い、サポートする役割を担います。
5. まとめ:中小企業における従業員説明の重要性
中小企業のM&Aにおける従業員への説明は、M&A後の統合作業に大きな影響を及ぼす重要なポイントです。「中小M&Aガイドライン」の内容も踏まえて、雇用継続や待遇の維持・改善を考慮しつつ、説明のタイミングと内容に細心の注意を払いながら開示計画を練りましょう。従業員の理解を得ることが、M&Aの成功にとっては不可欠です。
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